前口上2014
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39 「湯守 田中屋」地獄 2014年5月21日
務めていた会社を退職したその翌日から、
予定通り温泉へ通い身体を思いっきり休ませる事にした。
忙しくてまったく温泉に行けずにいた憂さを、
一気に晴らしてやるのだ。
もやは仕事帰りの寄り道ではない。
自宅から通う、ただの湯治模様といっていいだろう。
それはそれで、ナイス。
雨。向かうは塩原である。
雨の塩原はこれで三度目になる。流れる雲が低くて
山々をかすめてゆく。
到着したのは塩原は大綱温泉「湯守田中屋」。
まずはフロントへ。
「日帰り入浴を利用したいのですが」と申し出ると、
「露天のみのご利用となりますが、よろしいでしょうか?」と
誠に丁寧な対応をしていただいた。
さすがは「湯守」と名乗るだけのことはある。
よくわからないが、とにかく気持ちよかったのである。
ちなみに「湯守田中屋」には他に、
2種類の風呂(ひとつは宿泊客専用)がある。
入浴料800円を支払い、いざ露天風呂へと向かう。
この露天風呂は建物の中にあるのではなく、建物の前の道路を渡り、
川に向かって階段を降りていくのだ。
その段数、320段。なかなかに…。
ひたりひたりと石の階段を降りる。川の流れる音が近づいてくる。
流れる音というよりは、ドドドドドド、という轟音といった音だ。
「やべぇ、これ降りるのはまだしも、登るのはかなりしんどい事に
なりそうだぞ…」と思い始めたその時、脱衣所に到達した。
脱衣所、特に壁に囲まれているわけではない。
脱衣所自体も露天だ。目の前に広がる大自然に向かって
「えいやー!」と、おっ裸になる感じだ。
しかもこちらの露天風呂、混浴だ。
女性専用の露天風呂もあるが、
そちらに向かうさいに、見える場所に脱衣所がある。
平日の昼間、誰もいないからいいようなものの、
休日だと少々はばかる。
隠す隙さえも与えられないかのような問答無用さを突きつけられる。
しかし、その困難を吹き飛ばすような超ロケーションが、そこにある。
すぐ目の前に川。
滝、といっていいホドの落差から川の水が流れ落ち
ドドドドドドドドっと音をたてている箇所がふたつある。
目線を上げれば新緑がふっさふさと目の前に満ちる山。
ロケーションレベルでいえば、今まで入浴した露天風呂の中でも
圧倒的に他を引き離す。迫力が違う。
そして肝心の湯なのだが、特にくせは無く来る者を拒まぬやさしい感じだ。
ほんのり、塩っけな香りがして海水を想像する。
時間はお昼頃。ふと、ぼんやりと風景を眺めながら会社の事を思う。
今頃、会社の人達は昼食をとってる時間だな。
いつものように、あの人はあの席に座り、あの人はあの席に…。
オレがいつも座っていた席には誰が座っているのだろう…?
昼食時になるといつもオレのバカ話の相手をしていたあの人は…
話し相手がいなくて、もくもくと昼飯を食べているのだろうか…?
自分のいないその場の空気感なんて感じられるはずもなく、
いくら想像しても、それは想像でしかなく、
想像したところで何がどうというわけでもなく…
ただ、ちょっとだけ変わったその場の日常は、
オレからとても離れたものになって
その場の当たり前になっていくだけの事なのだな、と思うと
なにやらさみしさのようなものが少しこみあげてきて、
湯面をぱしゃりと手のひらで叩かずにはいられなくなった。
川から聞こえてくる轟音は、絶え間なく続いている。
温泉のハシゴをする予定になっていた。
身体が火照りきる前にあがる事にした。
服を着て、降りてきた階段を昇る。…やはり。思った通りだ。
めちゃめちゃキツイ。なんという試練。
決して運動不足なわけではないのだが、それでも足にくる。
ようやく登りきる。
汗。まぁ、この後、また風呂に入るからいいんだけど。
なんだかこのまま黙って立ち去るのが嫌な感じがしたんで、
「湯守田中屋」のフロントへ行って、挨拶だけしてくる。
やっぱりこのフロントの人、気持ちいいなぁ。
「田中屋」の入口で温泉が飲めるようになっているので、
置いてあったお猪口で2杯ほどいただく。
一言で片付けよう。
「最高のロケーションの後の、最恐の足腰の鍛錬!」
このことである。
さて、次…の前に、腹が減った。
元祖スープ入りやきそばでおなじみの
「釜彦」へ行って昼食をとる。
あえてソースかつ丼を食す。
ええ、米が食べたかったんですぅ〜。
↓ サイト内にある温泉成分表
◇「湯守 田中屋 温泉成分表」
「湯守 田中屋」データ: Ph7.7
<泉質> ナトリウム・カルシウム―硫酸塩温泉 (弱アルカリ性低張性高温泉)
<源泉> 塩原温泉 (源泉名 大綱4号)
<源泉温度> 62.5度
◇「湯守 田中屋」サイト
◇「湯守 田中屋」周辺マップ
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