前口上2013
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25「むじなの湯」地獄 2013年2月11日
決着をつける時が来た。
祝日。午前11時45分。昼飯時、車は西那須野を目指していた。
最初は場所さえよくわからずに近辺をうろうろしたものだが、
今となってはすっかり場所を憶えてしまった3度目の訪問。
「流星」。駐車場は満車とならんばかりに埋まっている。
ついに、ついに、難攻不落といわれた(オレ限定)その店内への入城に成功した。
ラッキーな事にカウンター席が空いており、すぐに座る事ができた。
テーブル席はなぜかどこもちいさな子供づれの家族客で埋まっていた。
「肉つけそば。黒ごま坦々。並盛り。あったかい麺で。」
初めてのくせに、まるで常連客のごとく何のためらいもなくオーダー。
待つこと約10分。幻の(オレ限定)つけ麺が登場した。
「肉」。まさにその名にふさわしいホドの肉量がつけ汁の中に入っている。
バラ肉、もも肉(?)、切り落とし部分をサイコロ状にブロック切りにしたもの。
坦々なのでひき肉も入っている。
「麺」がぷりっぷりしてます。濃いつけ汁に負けない主張を感じます。
ねぎの量が少々オレには多い感じで、その辛味が残るのがちょっと気になったが
やはり評判通りのおいしさを堪能することができた。
来てよかった。ホントにあきらめないでよかった。
このご機嫌ぶりをさらにたたみかけたい。
「ならばあそこでしょう!ええ、そりゃあそうですとも!」
オレ会議全員一致で車は奥塩原は新湯(あらゆ)温泉へと向かい始めた。
以前に行った「湯荘 白樺」がある地域である。
曇天強風。車がころころと転がってしまうのではないかと思うホドの風である。
さらに塩原に近づくにつれて雪がちらつき始める。
温泉街中心地を抜けるあたりから路肩には積もりまくった雪が見え始めた。
やがて非力な我が愛車ジーノにとっては鬼の山登りとなる、もみじラインに入る。
路面は凍ってはないものの、ところどころアスファルトがはがれており
大きな穴になっている所まであってデンジャラスロードと化している。
この道路の先に「ハンターマウンテン塩原」というスキー場がある。
そこからの戻り客と思われる車とけっこうすれちがう。
そしてその中には救急車が一台。察するに、こけられたものかと。
窓を閉めていてもわかる「臭」がほのかに香ってきた。
「まもなく!!」
それは高純度、疑いようのない昂揚感。
このあたりになじみ深い方なら「あの場所」で通用するハズの「あの場所」に
車を停め、そそくさと降り立つ。
さらに濃く漂う硫黄臭。
「ですよねぇ〜」と、よくわからない独り言が口からこぼれる。
雪まみれの階段を転ばぬよう慎重に下りていく。けっこう長い。
下り切ったところに外装はもろにプレハブな、
良く言えばほったて小屋風、悪く言えばほったて小屋風の
有名共同浴場「むじなの湯」がある。
入口に箱がある。入浴料300円を投入し、中へと突入する。
先に入った親子3人が服を脱いでいるところだった。
ロッカーどころか、かごもない。四角く区切られた木造りのたなに
服を押し込むスタイルだ。てか、内部はオール木造りである。
磨きぬかれたてっかてかの木ではない。すすけた感じの色合い。
だが、それがぐっと来る。なんていうんでしょう、あるがままな感じ。
その親子よりも先にじーさん4人が湯船に浸かっていた。
湯船は大人6人ホドで満席の広さ。そこに親子3人が突入していったものだから
「ああ、こりゃあ服脱がないでちょいと間をおこう」と待つつもりになっていた。
するとじーさん達が気を使ってなのか「そろそろ上がろう」「いやあ、いい湯だった」
と、空けてくれた。いいじーさん達だ。
さらに、中に入りかけ湯をしていると
「硫黄泉だから、ドア、ちょっと開けておくよ」と声をかけてくれた。
換気にまで気を使ってくれるとは、なんという素敵なじーさん達なのだ。
さて、浴場の中には洗い座は無い。だが、なぜかやたらに手桶はある。
湯船はもちろん木造りなのだが、奥の方へいくと岩がむきだしになっている。
どうやらこの岩の隙間から湯が出ているようだ。
ほとんどの温泉は地下からくみ上げているらしいのだが、ここは自然湧出。
その為か、湯の量はあふれ出るほど多くは無い。
温泉めぐりサイトでは「熱い湯」とよく紹介されているが、
この時の湯船の温度は想像よりも低めに感じた。
おそらく午前中に入浴した誰かが水を入れて下げたのだろう。
まぁ〜、ギリ適温って感じだったでしょうか。
先に入っていた5〜8歳ぐらいの子供2人がやたらに潜ってはしゃいでいて、
若いお父さんが「スイマセン…」と言いながら苦笑していた。
が、オレが苦々しく思っているはずもなく、むしろこの良い湯を
共有している心地よさに酔いしれていた。
そうなのだ。あの時に感じていた感覚がまた何か独特で、
「湯荘白樺」で感じた異空間に引きずり込まれたようなものでもなく、
「雲海閣」での秘密基地っぽさのようなものでもなく、
ましてや「鹿の湯」での稽古感のようなものでも、もちろんない。
なにかもっとまるくて、ふわふわした感じなのだ。
寒さでがさがさになっている手に硫黄泉をこすりこむようにもんでみる。
親子3人が上がっていった。だが、オレはまだ浸かっていたい。
女湯の方も誰もいないようで、にぎやかだった湯に静寂の時間が流れる。
両手で湯をすくい、顔にぱしゃっとあててみる。
ここで、この場所で。今までにどれだけの人が笑顔を咲かせてきたのだろう。
自動車が発達する前から、列車が走る前から、道路も整備されてなく、
草木が我が物顔で生い茂り、時代劇でしか見ないような恰好をしているのが
当たり前だった頃から、湯船の奥にある岩のすき間から
湯がちょろちょろと湧き出していたのだ。
彼方に流れていったはずの時間がほんの一瞬、湯気といっしょに
立ちのぼったように感じた。
一言で片付けよう。
「あるがままの温泉、ここにあり」
この事である。
「むじなの湯」データ: Ph2.4
<泉質> 酸性含硫黄−アルミニウム−硫酸塩温泉(硫化水素型)
<源泉> むじなの湯
<源泉温度> 59.2度
◇「むじなの湯」参考サイト
◇「むじなの湯」周辺マップ
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