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.......................
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17「雲海閣」地獄 2012年10月28日
その日の前日。
腰の鈍痛が日々気になるようになってきて、たまらず医者に見てもらった。
「疲労がたまりまくっていて、筋肉ががちがちになってます。」との事。
さもありなん、と背中と腰のマッサージを受けながら話を聞く。
「お風呂に入って湯船にゆっくり浸かるのも効果的ですよ。あと温泉とか。」
なんですと!?オレの目はぎらりとまばゆい光を放っていたに違いない。
の、の、の、望むところである!
むしろ、その言葉を待っていたと言っていい。
もう、お医者さまがそうおっしゃるのなら行かねばなるまい。
帰宅早々、どこへ行こうかと検討に入った。
当日。午前11時半。雨である。
以前より、次はここ、と決めていたところは車を降りてから少々歩かねばならない。
そちらはまた後日という事で、やって来たのは那須湯本、旅館「雲海閣」だ。
旅館というよりは湯治宿と言ったほうがよいのだろうか。
素泊まり&日帰り入浴のみの宿なのだそうだ。
素泊まり客専用の自炊できるキッチンがあるのが、何だかすごい。
建物は昭和感丸出しのシブい作りだ。玄関からして、横にガラガラガラ〜っと開くヤツ。
シブい。しびれる。おしゃれなシブさではなく、筋金入りのシブさである。
フロントにて入浴料400円を払う。もう、この時点で硫黄臭がもふもふである。
「風呂までの行き方わかりますか?初めての方ですか?」と、
ご主人が親切・丁寧に浴場までの行き方を説明してくれた。
その通りに歩を進めると、思わず「おう」と声をあげてしまった。
コンクリむき出しの通路。天井は180cmホドだったのではないだろうか。
幅もそう広くはなく、すのこが延々と並んでいてぞくぞくするような怪しさである。
やがて今度は下り階段にぶつかる。木製。壁も天井も木製。手すりが竹。
50段ホド下っていく。まるで本物の秘密基地にでも向かっているようだ。
「何なんすか、もう。あああああー。」素敵すぎて、肝心の風呂に入る前から
やられっぱなしである。
風呂場へと到着。脱衣所はもちろんかごにインするタイプだ。
8個ホドあったかごのうち、ひとつ使われている。先客がお一人いらっしゃるようだ。
さて我もと勇んで中に入っていくと、よくわからない光景が目に飛び込んできて、
腰がくだけそうになる。
湯船はふたつある。使いこまれた感のあるオール木造り。
入口から向かって右手が適温。左手が熱い湯になっている。
その間に約30cm幅の木の板が張ってあるのだが、その上に先客のおやっさんが
寝ている。さながら人間境界線だ。
「むふー」とか意味不明な呼吸音を出している。本当に眠っているわけではないようだ。
洗い座は無い。湯船のみ。
謎のおやっさんに気を取られてしまったせいか、左手の床にあったケロリン桶を拾い、
そのまま熱い方の湯船から湯をすくってそれで身体を流し始めてしまった。
熱い方の湯、かなり熱い。
「なにくそう!受けて立つ!」と無駄なやせ我慢をしているうちに
人間境界線のおやっさんが適温の湯船に入った。つまり人間境界線のおやっさんから
普通のおやっさんに戻ったのである。
その流れ上…なのか、なんだかよくわからないが「まず熱い湯船から入るべし」という
使命感のようなものがむくむくと湧き上がってきた。
「湯船である以上、入れぬ湯などあるものか!」
やせ我慢マックスへとギアをシフトアップして、そ〜っと白濁の湯へと
足をすべりこませた。足が、ピリピリする熱さだ。
腰まで沈める。ぜいや!と、気合一発、肩までを沈める。
んんんんんんー、やっぱり熱い。と、おそらく2分も経たぬであろううちに
湯船から出て、床に座ってクールダウンを始める。
やがて元人間境界線のおやっさんが脱衣所へと姿を消した。
空いた適温の湯船へひたひたと移動してみる。適温!これはまさに適温。
「これならいくらでも入っていられる!」と異様にテンションが上がる。
白くきれいな「湯の花」が湯面でゆらめいている。
手で湯をすくい顔へぱしゃり。硫黄臭。さすがは鹿の湯源泉。純度高し。
思うさま足を伸ばしながら、誰もいない湯船をぼんやりと見つめていると、
こんなにも良質な風呂を独り占めしているという、とんでもない贅沢感が
理性を破壊する。
「ようし、今度はオレが人間境界線だ!」
さっきのおやっさんと同じように、湯船と湯船の間にごろりと横になってみる。
入口側の壁、上部に明かりがふたつあるのだが、点いているのはひとつで
もうひとつは消えていた。発見といえばそれくらいで、さほどの事ではなかった。
「無念。」そのまま適温の湯船へとごろん、ばしゃんと転がり落ちてみる。
やりたい放題だ。こんなに極上の温泉で。んもー、ホントに。恐縮です。
例えるならば、「高校球児が校歌を歌い終わった後、応援スタンド前までダッシュする」
あれにあこがれ、真似をしたいが為だけに甲子園球場を貸し切るぐらいの
ワケのわからなさだ。
窓や出入り口のドアを見るとお世辞にもキレイとは言い難い。
湯気で立ち上った温泉成分が容赦なくよごしているのだろう。
しかしそれはこの湯の濃厚さを証明しているように見える。
出たり入ったりを5,6セット繰り返しただろうか、
いい加減指先がしわしわになってきた。後ろ髪を引かれる思いで脱衣所へと向かった。
身体にしみこんだ硫黄臭が、もふもふと立ち上る。
服を着込んでいる間にも源泉がじゃぼじゃぼと湯船へ流れ出る音が聞こえてくる。
出入り口のドアのサッシの取っ手がとれていたので、思わずそこから中を覗きこんでみる。
出てる。湯が。
「オレが出て、誰もいなくなっても健気にあの上質の湯は流れ出ているのだな」
そう思うと、なんていうんでしょう、いとおしいというか、いじらしいというか…。
一言で片付けよう。
「12時になると魔法がとけるからそれまでに帰ってくるのですよ、シンデレラ。」
このことである。
「雲海閣」データ: Ph2.5
<泉質> 酸性-含硫黄-カルシウム-硫酸塩・塩化物泉(酸性低張性高温泉)
<源泉> 鹿の湯・行人の湯混合
<源泉温度> 68.4度
◇「雲海閣」参考サイト
◇「雲海閣」周辺マップ
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